シンデレラの靴

あまりにも有名なお話、継母にいじめられた少女シンデレラが魔法使いの協力でお城の王妃様になるあの話です。所詮は童話であり民話であり昔話ですので、魔法使いが出てくるような荒唐無稽、なんでもありのご都合主義がストーリーに散りばめてあっても全くさしつかえないのですがどうしても気になる部分があります。

お城の舞踏会が終わり12時の鐘が鳴り響く中、シンデレラは長い階段をかけおります。追いかける王子様、あせったシンデレラはガラスの靴を片方落としてしまいます。去っていったシンデレラを茫然と見送り、残されたガラスの靴を握り締める王子様。物語のクライマックス・シーンのひとつです。

時間ぎりぎりにお城を出れたシンデレラですが帰宅途中に魔法が解けてしまい、かぼちゃの馬車を始めとしてみんな元に戻ってしまいます。ところが王子様の手許に残された靴はそのままなのです。子供の頃は何の疑問もなく受け入れていたのですが、どう考えても不自然です。

魔法使いが出てくるような童話に不自然も何もあったものではありませんが、お城に残った靴の魔法がそのままならば、12時の鐘がなり終わった後もシンデレラがもしお城の中にいれば魔法が解けなかったんじゃないでしょうか。なんと言ってもお城に残ったガラスの靴の魔法はなぜか異常に強力で、舞踏会の後、国中でシンデレラ探しをしてもぜんぜん解けなかったぐらいですから。

昔話というのは全くのフィクションであることは案外少なく、ある程度の事実を基に作られていることが多いってご存知ですか。もちろん長い年月のうちに誇張や誤って伝えられたり、またわざと話を変えられた部分があったりして、今私たちが読む分には荒唐無稽の話であろうが、ストーリーの矛盾や不思議な表現も「そんな話だから」で何の疑問ももちませんが、魔法が解けないシンデレラの靴から物語の真相を推理したくなります。

物語の背景をもう一度考えてみたいと思います。この話の本筋はシンデレラの奇跡ではなく、王子様のお妃選びではないかと考えます。桃源郷のような平和な王国ならともかく、王国の後継者のお妃選びは国の命運を左右しかねない重大な問題です。通常は隣接する友好国の絆を深めるための政略結婚がもっともスタンダードで、国内で妃を選ぶとすれば選ばれた家は王国内で大きな権力を得ることになります。

シンデレラの王国ではいろんな事情でどうやら国内からお妃を選ぶことになったようです。ミス・ユニバースのコンテストなんかとは比較になりません。一族の命運がかかったお妃選びです。自分の娘を美々しく装わすのはもちろんですが、ライバルの足を何とか引っ張ろうとするのも当然です。もっと深刻なのは適当なお妃候補を持たない家です。

いかに現在の王様の下で有力者であっても、王子さまの時代が来ればお妃の一族が台頭してきて自分たちが没落するのは目に見えています。下手すると一族が滅亡することもありえます。ではいったいどうしたらよいものでしょうか。

幸い王子様は坊ちゃん育ちの政治音痴、見てくれだけでお妃を選びそうだと言う情報を手に入れたところで、策を考えます。なるべく無力な家の娘をお妃にし、その時に強力な後ろ盾になって影響力を保持する戦略です。

そうやってみるとシンデレラはうってつけの存在に見えませんか。今は下女のように働かされていますが、出身自体はいちおう貴族の端くれのようですし、他の家族に強い憎しみをもっているのでたとえお妃になっても元の家族の繁栄に便宜を図る可能性も低い。むしろお妃になるのに協力してくれた一族を大事にするに違いないと策動した人物がいるとすれば話が見えてきませんか。

ひそかにシンデレラと連絡を取り(魔法使いがその連絡役でしょう)、舞踏会の日に示し合わせ、ガラスの靴や馬車を始めとする豪華な装いを準備をする。お城に入るのもああいうものはふつう招待状がなければ入れるはずもないのですが、有力者であればその辺はなんとでもしようがあります。

本番の舞踏会では有力者の思惑通り王子様はシンデレラに夢中となりました。それでは例の12時の鐘うんぬんは何かといえば、当然のこと恋の駆け引きです。もっとも経歴を誤魔化している部分がありますから、舞踏会当日ですべてを決めようとすると影で策動してる人物の企みが露呈してしまいますので、いったんは引いたというところでしょうか。

ここまで書けば残されたガラスの靴の魔法が解けない理由が分かりますね。もともと本物のガラスの靴だったのです。後は影の人物の思惑通り話は進み、シンデレラにのぼせ上がった王子様は他の女性にはまったく目をくれなくなり、国を挙げてのシンデレラさがし、きっと素知らぬ顔で王子に協力し、劇的なシチュエーションを設けて再会→結婚まで演出したことでしょう。

たははは、夢も希望もない小さな国の権力闘争の一幕といったところでしょうか。シンデレラがお妃になった後、きっと誰かが「どうやってあの馬車やガラスの靴を手に入れたのですか?」と聞かれたでしょうが、まさか真相を話すわけにも行かず「魔法使い・・・」てな話をでっち上げたのではないかと思います。その辺は昔の純朴な人々ですから、素直に信じ込んでシンデレラ伝説が出来上がったのではないかと思います。