熱さまし(坐薬)の使い方、考え方

熱さましは使わないほうが良いのか

「病気の時に熱が出るのは体が病原菌に対し免疫力(抵抗力)を高めている状態なので、熱さましを使って不自然に熱を下げるとかえって病気が長引いたり、悪くなったりする。だから熱さましは使うな」
要約すると上記のような主張が最近多くなりました。実際にそういう風に指導されている医者も少なからずおられます。この主張は顕微鏡レベルの細胞免疫活動の研究成果を踏まえており、理論上は決して間違いではありません。
理論上は間違いが無いからといってすべての小児科医が無条件に賛成しているわけではありません。最低限乱用を慎むという点では大いに参考にしていますが、だから使うなとの主張はあまりに極端であり、やはり必要な時には使うべきであると考えております。
病気を治すのは最終的にはお子様の体力で治しています。お薬も確かに効果はありますが、肝心なのはやはりお子様の体力です。お熱が上がるというのは細胞レベルでは免疫力(抵抗力)を高めているでしょうが、一方では体力の消耗を起しています。体力が消耗があるレベルを越えると、全体的な免疫力(抵抗力)が急速に低下し病気が一気に悪化することがあります。つまり病気に体が負けかける状態になります。
そのため病気の時にお子様の体力を少しでも維持する治療も重要だと考えています。維持する治療といってもそんなに大層なものではなく、つまりは飲んだり、食べたりしてもらう、または安静の一番の方法である寝てもらうをしてもらうことです。
機嫌の良いお熱の時には、熱があっても食事もし、睡眠も取れるでしょうが、機嫌が悪い熱(頭が痛い、節々が痛いなど)の時には泣きわめくばかりで出来ませんので、こういう時には熱さましを使って下げてやらないと食事や睡眠が出来ない状態が続くことになります。
熱さましには熱を下げる作用と痛みを抑える作用があるため、機嫌の悪い熱でも少しは楽になります。楽になった機会をとらえて少しでも水分を取ってもらい、また夜なら寝てもらうのは病気の治療にとって非常に重要な治療であると考えています。

何℃なら使ってよいのか

当院も含めて多いのが「38.5℃以上の時に屯用」との指示が最も多いようです。じゃあ38.4℃なら絶対ダメで、38.6℃まで放置したら問題かと言えばそんなことはありません。子供の熱は機嫌の良い熱というのが少なくありません。39℃ぐらいあってもニコニコしているのも珍しくありません。上にも書いたように熱が出ること自体は病気の時の自然な体の反応ですから、機嫌さえ良ければ38.5℃以上でも熱さましを使うことはありません。
一方で38℃ぐらいでも機嫌がすこぶる悪い熱もあります。この場合は放置しておくと食事も出来ず、睡眠も取れなくなりますので、熱さましを使ってあげたら良いと考えます。使ってあげて少しでも機嫌が良くなったらその間に食事や睡眠を取らせて上げてください。
簡単にまとめると、
38℃以上で機嫌の悪い熱のときに熱さましを使う。
ただしいくら機嫌が悪くても38℃未満での使用は避けてください。成人ではまずありませんが、子供の場合熱さましで熱が下がりすぎることがあります。医学的には発熱より低体温のほうが後遺症や合併症を起しやすく要注意と考えています。
機嫌の良い熱、悪い熱と分類して話をしましたが、最初からそんな判断ができるとは期待していません。とくにお一人目のお子様の最初のお熱の時から冷静に「今の熱は機嫌が良いから熱さましなんか使わなくても良い」と判断できるお母様方、お父様方はほとんどいないと考えています。何回かお子様がお熱を出すのを経験して、真剣に観察してその上でやっと判断できるものと思います。ですので当院では最初は怖かったら38.5℃で使ってくださいとお話しています。お子様の発熱を何回か経験しているうちに様子を見れるような余裕が出来たら、機嫌の悪い熱にのみ使うようにしていきましょう。

何個も使って大丈夫か

120%保証つきとは言いませんが大丈夫です。もちろん薬ですので副作用が無いことはありませんが、非常に頻度は低いものです。どんな薬でもそうですが、作用だけで副作用が無い薬は片手にも足らないぐらいしかありません。熱さましの副作用が特別頻度が高いわけではありませんし、熱さましの副作用が怖いのならほかの抗生物質なんてもっと怖いですからとても服用なんか出来なくなります。
熱がある程度の期間続けば当然使用する熱さましの個数は増えてきます。指定の間隔さえ守っていただければ個数が増えてもそれだけですぐ副作用の危険性がどんどん増えることはないと考えていただいて良いです。

熱さましを使っても熱が十分下がらない時は

40℃ぐらいの高熱になると十分な解熱作用が現れないことがあります。せっかく使っても38℃台の後半ぐらいまでしかさがらず、お子様の「フー、フー」言う状態が一向に楽にならない時も残念ながらあります。そうなるとお母様方やお父様方がパニックになる気持ちもよく分かります。しかし残念ながらどうしようもないの現実です。
子供用の薬はすべて年齢体重から計算してお出しするのですが、適正な用量であっても個人差で効果の弱い子供もいれば、効果が強く出すぎる子供もいます。とくに坐薬の場合には粉薬やシロップと違い微調整の融通がききにくく、お子様の体重によってはやや少なめになったりすることがあります。また現在お子様に使える熱さましはアセトアミノフェン(製品名はたくさんあります)という成分の薬ですが、この熱さましの特徴は安全性は高いが効果が鈍いという特徴があります。
もし少な目の用量でお薬を処方している場合はもう少し増やすという対処法がありますが、どうみてもこれ以上は薬の用量に手直しのしようがない場合にはひたすら嵐が過ぎ去るのを待つ以外には方法がありません。
お願いしておきたいのは熱が下がらないからといって指示させて頂いている間隔を無視して短時間で何個も熱さましを使われると、副作用が出てくる危険性が増しますのでどうかご注意ください。