小児救急の危機

最近になってようやく世間でも話題にしてくれた小児科に関する問題です。どこがどう問題なのかはあちこちのHPで書き尽くされていますし、私もそれ以上は余りつけ加えようとは思いません。まあ大体そんなところだからです。強いて書き加えればこれもネットに書かれていますが、世間やマスコミが余りにも「小児科医の勤務実態は悲惨なぐらい過酷だ、採算性も悪い、やるのはとっても難しい」と言うものだから、医学生の間に「小児科だけはやめておけ」との声が高まっているのも事実です。

危機と言うぐらいですから早急に改善しなければならないのですが、その改善策とやらは余りにもお寒い限りで、真剣に危機を回避しようとしているかどうかについては正直なところ疑問符が山ほどつきます。いくつか挙げてみますが、

  1. 研修医に2ヶ月間の小児科研修を義務付け、誰でも小児救急を診察できるようにする。
  2. 内科医に小児科研修を行い、小児救急を診れる人材を増やす。
  3. 小児科医で休業中の女性医師の積極活用。
  4. 開業医の休日夜間救急への積極参加を促す。
  5. 診療圏整備を行い小児救急の拠点病院を作る。

たった2ヶ月の研修や、たった数回の研修会への参加で、小児科のしかも救急を診察できるようになるとは、小児科も舐められたものです。そんな簡単に出来るものであれば小児科なんてご大層な診療科は必要なく、他科の医師が片手間に小児科をやれば良いだけの話です。小児救急の課題としては子供を専門の小児科医に診て欲しいというのを全く忘れた政策です。

休業中の女性医師の活用は基本的に賛成です。しかし育児を抱えて、時間外や休日勤務の免除、さらには午前のみとか曜日を限定しての勤務であれば救急への対策にどれほどの効用があるのか大いに疑問です。しないよりはした方が良いぐらいでしょう。

開業医は若手と呼ばれる年齢で40代、主体は50代、60代が中心となるところがどこでも多いと考えます。この年齢の医師に自分の診療所以外の出務を促したところで、自ずから限界があります。開業医も以前は勤務医であったわけで、小児の夜間休日診療がどれだけ過酷なものかはよく知っており、行政がいくら「積極的に」と叫んでも誰も出来たらやりたくないのが本音ではないでしょうか。

診療圏整備がいくらかまともな政策です。ただしほとんど進んでいないのが現実です。なぜ進まないのかはいろいろ意見が書かれていますが、もしやればどこでもとめどもない大赤字が出る代物だからです。最近では自治体病院であったとしても独立採算であることが強く要求され、赤字は絶対の悪と定義されます。赤字が悪となれば不採算部門の淘汰整理は絶対の善であり、不採算部門の筆頭は小児科であり小児病棟であるのは医療関係者だけではなく世間で周知の通りです。小児科だけではなく救急医療そのものが大赤字部門です。小児救急が尚更なのは言うまでもありません。普通に小児科をやっても不採算部門であるのに大赤字を生み出す小児救急なんて代物に本腰を入れようなんて物好きが世の中にどれほどいると考えているのでしょうか。

今の世の中に続々と作り出されている医療施設はなにかご存知ですか、いわゆる老人保健施設です。病院だけではなく一般開業医であってもこれを作るのに血眼になっています。この状況が是か非かはおいておくとして、ここに小児救急整備のヒントを見る様な気を私はしています。なぜ世間の医療関係者が老人保健施設を作りたがるかです。答えは簡単、これが大変儲かる代物だからです。利益が上がるところに投資を行いより利益を得ると言うのは資本主義の原則です。この資本主義の原則どおりに、老人保健施設は栄え、小児救急は死に絶えようとしているだけのことです。医療も今や公益性の美名は口先だけのお題目に成り下がり、資本主義の市場原則に忠実に従う利益追求産業に変質している現実を冷静に認識する必要があります。

ではどうすれば良いか。小児救急を老人保健施設並みに、やれば儲かる制度に変えれば良いだけです。そうすれば「やるな」と言っても続々と「うちがしたい」という医療施設が出てくるのは間違いありません。そうすれば速やかに小児救急の危機は解消され、儲かる小児救急の志望者はどんどん増えるのは火を見るよりも明らかです。

じゃなぜしないのでしょうか。答えは余りにも簡単、子供にそれだけお金を注ぎ込むのは政治家としてまったく旨みが無いからです。高齢者対策の実績は選挙にじかに反映します。ところが子供へのものは「まったく」と言ってよいほど票になりません。ましてや高齢者対策の資金を子供に回したりして、減額なぞしようものなら政治生命に関わるものになります。予算の行方を左右する政治家もまた資本主義の原則に忠実な人々であり、自分の利益、すなわちどれだけ選挙に役立つか、その後どれほどの見返りが期待できるかで政策の方向性は決定されます。その利益も間違っても長期の視点に立って大所高所から判断して百年の計をたてるようなものではなく、長くて自分の任期、通常はほんの目先の1年、2年単位でしか考えません。

少子化対策、小児救急問題などは政治家にとっては自分の生きている間にすら切羽詰った問題になる気遣いは無く、気遣いが無いものには彼等の得意のセリフである「政治的判断」により「前向きの姿勢で善処する」(この言葉の意味は皆様よくご存知の通りです)以上のものを期待する方が無理があると考えます。

結局出てくる政策は高齢者対策費に較べると驚くほど安上がりの案。すなわちこれからは研修医に小児科を研修させたからもう誰でも小児救急が出来るはずだと建前だけの案。地域医療連携の美名の下、高齢化でアップアップしている開業医を安い補助金で運用する姑息的な案。子供を診察するのは苦手だと高言する内科医をインスタントに小児科医に仕立てる案みたいなものしか出てこないと考えます。

小児救急を救うには「小児科医が医師の使命として命をすり減らして仕事に当たれ」式の精神論や、形式上の数合わせで子供を診れるとされる医者を量産するような弥縫的な対策では解決するとはどうしても思えません。それより高齢者対策並みの莫大な資金を投入して、医療産業が「儲けるために小児救急を是非やりたい」環境を整えるのが、即効性があり、永続性があり、間違いなく抜本的な解決法と考えるのは短絡的過ぎるでしょうか。