ついにストライキまでもつれこむ泥沼劇になってしまいました。前回もこの話題に触れた関係上どうししても続編が必要になってしまい、手を出さなきゃ良かったとひそかに後悔しております。それでもプロ野球ファンとして言いたいことを書き記しておきたいととの思いは強く自分もまた泥沼に入りそうですが、今回のドタバタ騒動のもともとの発端から二転三転する展開を整理しながら書いてみたいと考えます。裏情報やアングラ情報、憶測記事や私の主観や思い入れが入り混じりますので、しょせん真相は闇の中ですがそこのところはよろしく御理解お願いします。
第1幕 近鉄ネーミングライツ問題
問題の根っこをたどれば'49(S.24)の2リーグ分裂の怨念までさかのぼってしまいますし、そこのところをはっきりさせておくのは重要ですが、この件については前回の「1リーグ制になる 〜プロ野球の危機」ですでに詳説しましたので今回ははぶきます。まだ読まれていない方はよろしければご笑覧ください。
そうなると今回の騒動の発端はやはり近鉄ネーミングライツと言うことになります。簡単に経緯を説明すると、
'04.1.31近鉄球団は1年間35億円で球団名を付ける権利を売り出すと発表します。どういう事かといえば、近鉄は球団を所有し運営するのになんら変わりはありませんが、球団名だけを好きな名前に付ける権利をあげましょうというものです。たとえば吉野家がもし買ったら「吉野屋ギュウドンズ」となりダイソーが買ったら「ダイソー・ヒャッキン・オールスターズ」となると考えたら良いでしょう。
前例が無いわけではなく、オリックスがGS神戸の名前を「Yahoo ! BB」として売ってますし、二軍の名前を穴吹工務店に売り「サーパス神戸」としたりがあります。オリックスのときは問題にすらならなかったのですが、近鉄の場合は球界、世論から袋叩にあいたった5日間でこの案を撤回しています。
今から考えればこのときあっさり承認しておればこれほどの騒ぎにならずに済んだのでしょうが、根回しがヘタクソな近鉄の不手際もあってこの話はオジャンになります。世間一般ではこれでこの騒ぎは線香花火のように終わりで、オフシーズンのエピソードのひとつぐらいしか考えませんでしたし、私もまた同様です。オフシーズンの話題はネーミングライツがあっさり終わったあと、パ・リーグの変則プレイオフの是非と相も変らぬダイエー売却危機の方が大きなウェイトを占めていました。
第2幕 オリックス・近鉄合併問題
近鉄の歴代オーナーはかなりの野球好きが続いてきたのは間違いありません。近鉄の歴史は2リーグ分裂の時にパ・リーグに加盟することで始まるのですが、加盟してから20年ぐらいはまさに惨憺たる成績を残しています。最多連敗、リーグ最低勝率、シーズン100敗、観客動員数30万人・・・・。それでも近鉄は確固として球団を保持します。黄金時代を築き上げた他の電鉄系球団(西鉄、南海、阪急)が相次いで身売りされても球団経営に対する姿勢は微塵も揺るがず、「さすがは大近鉄である」と称賛されていたぐらいです。
ところが近鉄現オーナーはあまり野球はお好きでないようです。近鉄本社の経営自体もあまり良好とはいえない事情もあるのでしょうが、おそらくそれまで聖域とされていただろう球団運営費にも大きな関心が寄せられたようです。ごく普通の経営者が考える「不採算部門の見直し、整理」の対象に球団があがったのは通常の経営センスからすれば当然で、担当者に突きつけられた命題は「赤字運営を解消できないのなら整理せよ」とのご託宣であったのはほぼ間違いないと考えております。
ネーミングライツの35億円という中途半端な設定はそのまま球団赤字分と解釈するのが妥当でしょうし、ネーミングライツが失敗した後担当者が「これでは球団運営が出来ない」と語ったのはボヤキではなく本音であったと今からなら憶測できます。
一発起死回生を狙ったネーミングライツに失敗した球団ですが本社からの命題はなんら変わることはありません。まずひとつ目の「赤字解消」が出来ないのであれば次は「不採算部門の整理」となります。整理となればこれまでは球団身売りが常套手段であったはずなのですが、今回はなぜか球団合併の方向に走り出します。
ここまでの流れは近鉄球団および近鉄本社の事情による動きですが、身売りではなく合併の方向に動き始めるあたりから球界全体を巻き込む騒動となり、渡辺オーナーが描いたシナリオが騒動の火種を拡大していくことになります。
第3幕 渡辺オーナーの暗躍
言わずと知れた読売のオーナー。近鉄関係者の話から「合併の話は巨人の渡辺オーナーの了解も取り・・・」の話がある所から、近鉄が身売りではなく合併路線を推進したことに深く関与したことは間違いありません。球界の1リーグ制推進論者として有名なのはこの渡辺オーナーとオリックスの宮内オーナー、西武の堤オーナーであることは周知の事実であり、近鉄から相談を受けた渡辺オーナーが残りの二人と密談を持ったことに疑いの余地はありません。内容はおそらくこんな感じだったのでしょう、
渡辺:「近鉄が球団経営から手を引きたいと言うとるんじゃよ。手を引きたいというものをとめるわけにもいかんが、このままじゃパ・リーグは崩壊だぞ。」
堤・宮内:「・・・・・。」
渡辺:「どこか買い手を見つけて身売りでお茶を濁しても良いがこれはチャンスと思わんかね。」
堤・宮内:「チャンスとおっしゃいますと」
渡辺:「身売りではなくて合併にして球団をひとつ減らしてしまうんじゃ。そこで5球団ではリーグ運営は不可能として、続いてもうひとつ球団を合併消滅させ10球団にして1リーグ成立にもっていくんじゃ。」
宮内:「それは願っても無いお話です。オリックスは近鉄と合併します。」
堤:「もうひとつはダイエーとどこかですね、ダイエーは本社が潰れかかっているしきっと渡りに船でしょう。ロッテ当たりが良いんじゃないでしょうか、こちらの方は私が責任をもって工作します。」
渡辺:「ハハハハ、これで来年は同じリーグの釜の飯を食えると言うもんじゃ。」
オリックスは神戸より市場規模の大きい大阪に進出できて、下位球団同士とはいえ戦力補強が濡れ手に粟でできる。そのうえ苦境の近鉄の救済役として世間への印象も良いと言うことなし。西武は一にも二にも巨人と同リーグになれるのならなんの文句も無い。渡辺オーナーは身売りでなく合併路線という奇策で念願の1リーグにできるのであるから、きっと世間から「球界の救命者」として絶賛されるはずですし、新リーグでは巨人強化のためのルール作りが思う存分出来ると三者三様の算盤勘定で渡辺シナリオは進行する事になります。
この渡辺シナリオは見様によっては8割以上は進行、成功していました。世間はペナントレースそっちのけで合併問題に注目し、一時は今日明日にも2つ目の合併が成立し怒涛のように1リーグ制に向かうのはもう誰にも止めようがないとあきらめかけていたぐらいですから。
第4幕 ライブドアの登場
渡辺シナリオの前提は「まさかいまさらプロ野球に進出しようと言う企業は無いはず」です。世間一般もそうだったでしょうし、渡辺オーナーや堤オーナー、宮内オーナーもそう確信していた節があります。とくにパ・リーグはどうころんでも赤字経営で、たしかに宣伝効果は大きいかもしれませんが、この不況のさなかにそんな酔狂な企業はあるはずがないと誰しも考えていました。
ところが酔狂な企業がいたのです。日本でも数少ない成長産業であるIT産業の雄ライブドアです。高収益企業でしたが知名度は低く(私も良く知らなかった)、そういう企業がネームバリューと信頼度を一挙に得るには球団所有が非常に有効であったからです。当初は単なる売名行為の冷やかしと見る向きもありましたが、粘り強く近鉄買収を世間に訴えかけます。さすがにIT企業だけに世論を味方につけるパフォーマンスも決して抜かりはありません。
ライブドアがどうやら本気らしいと世間が認知し始める頃から世論の流れが変わってきます。渡辺オーナーの高圧的な手法、言動に反感を抱いていた者たちは「買ってくれる企業があると言うのになぜ球団をつぶす」、「渡辺オーナーはプロ野球をつぶす気か」、「たかが選手というならば、渡辺オーナーもたかがオーナー、たかが新聞社の社長じゃないか」といっせいに声をあげます。
渡辺シナリオでほぼ決まりかけていた2つ目の球団合併から1リーグ制への流れは世間の強い反発から徐々に押し戻されることになります。ダイエーとロッテ、西武とロッテ、西武と横浜などの組み合わせがかなり水面下で摸索されたようですが、ここで2つ目の合併を下手に発表すると世間から袋叩きにされるのは目に見えており、どの球団もしり込みし渡辺シナリオは頓座を余儀なくされます。
第5幕 エゴむき出しのオーナー会議
醜悪なエゴむき出しの場になったのがオーナー会議です。球団合併が1リーグへの筋道であるのは明白なことから、球団加盟の会議以来出席したことがなかった堤オーナーが渡辺オーナーと手に手を取って登場し、「2つ目の合併は近日にも発表できる。」とまず先制パンチを放ちます。
続いて珍しいことに次には阪神の久万オーナーが動き、巨人以外のセ・リーグ5球団の合意を取り付け、11球団でも2リーグ制を保持するかわりに、今まで何があっても同意しなかった交流試合を提案します。この提案は1リーグになって巨人戦が増えることに皮算用を弾いていたパのオーナーから冷笑をもって迎えられ、渡辺オーナーから「2リーグはかまわないが、セ6、パ4の10球団になった時、巨人はパ・リーグに行くぞ」と恫喝されてヘナヘナとひきさがる茶番劇を演じています。
オーナー会議も当初は渡辺シナリオの前になんの抵抗も出来ずに押し切られるかと見られましたが、ライブドアの参入問題の存在が大きくなるにつれ流れが変わります。堤オーナーが胸を張って発表した2つ目の合併は挫折し、結局11球団で来季も行わざるをえなくなり、世論の反発を一身に買った渡辺オーナーは部下の不祥事を理由に辞任してしまいます。
セ6、パ5のリーグで改めて交流試合案が検討されましたが、同じ案で先に冷笑された阪神は「なにをいまさら」と憤慨。オリックス・近鉄の合併のみは承認されましたが、1リーグ制に移行なんてだいそれたシナリオは進行するはずもなく、それ以外はほとんど何も決まらずに会議は踊ることになります。
第6幕 プロ野球選手会
球団が減って就職先が減って一番困るのは選手ですので当然合併は反対です。合併問題が起こってから何度も経営者サイドに協議の申し入れを行っています。当初の話ではさらにもうひとつ球団が消滅する話でしたから、話し合いをの申し入れ自体はごく自然な行為と誰の目にも映ります。ところが経営者サイドの方は頑ななまでにこの申し合わせを無視します。渡辺オーナーの「たかが選手、無礼である」発言にその姿勢が凝縮されています。
選手会の提案自体は冷静に見ても穏当かつ合理的なもので、論点はふたつで
この請願を経営サイドに繰り返し「協議しよう」ともちかける一方で、反対署名運動、はたまた裁判にまで訴えます。最後はストまで持ち出しますが、最後まで経営サイドは協議の場を持たず合併承認を既成事実としてしまいます。ストに関してもまたしても渡辺オーナー曰く「やりたければしたら」と、どうせできないと多寡をくくっていた様で結局選手会なんてなにもできないと確信していたようです。
選手会自体も問題がないわけではなく、そもそも経営破たんの直接の原因は異常に高騰した年棒であることは誰しも知っており、球界の再生ということになると選手も苦い汁を飲まざるを得なくなるかもしれません。この点を評して「億万長者のスト」と揶揄する人もいますが、ひとつ大きな誤解があると思います。
もし合併凍結が承認され球界再生のためにサラリー抑制が提案された時、その提案が合理的であるにも関わらず選手会が拒否しストを起したのなら「億万長者のスト」と酷評されてもしかたがないと考えます。ちなみに「億万長者のスト」をやって大顰蹙をかったのが大リーグ選手会です。ところが日本の選手会はまだサラリー抑制の件については一言も協議されていないのです。提案もされていないものを自ら「給料は半分にします」なんて主張するのもおかしい話ですし、もしサラリー抑制の話となれば、当然経営者サイドは球団の詳細な収支決算を提示し、「選手に出せるのは選手に出せるのはどうがんばってもこれだけしかありません。」と誰しも納得する額でないとどうにもなりません。
日本の球団経営者は「球団は赤字だ」、「中村紀の年棒は泥棒みたいなものだ」と主観的な話をするだけで、客観的な収支決算を一度たりとも提示したことがありません。どれだけ赤字かの資料もないのにサラリー抑制の交渉も仕様がないじゃありませんか。サラリーの問題はこれからもあるでしょうが、プロ野球選手の給料がどれぐらいかを妥当か判断するための情報開示がまずなされなければ話になりません。
それと高騰する年棒といいますが、誰も選手の言い値で払っているわけではなく、毎年毎年契約更改の場で双方納得の上で決まった金額なので、責任の半分は経営者サイドにあるとも判断できます。払えなければ契約しなければ良いわけですからね。契約書にサインしたからには払えるからと解釈されても不思議はないと考えたら言いすぎでしょうか。それとも日本のプロ野球選手は「こんなにもらったら多すぎます。半分程度で私の給料は十分です。」とでも言わなくてはいけなかったのでしょうか。
第7幕 スト決行
この交渉は出発点から双方の立場が大きく離れすぎて難航すると見ていましたがやはり決裂しました。合併問題もオーナー会議で承認する前に協議をさせてくれと言うのをまったく無視して承認を既成事実とし、ストを目前に振りかざされてようやく交渉に入ったら「もう決定事項ですから協議の余地はありません。」と言われてもそう簡単に「ハイそうですか、決まったことだからしかたがありませんね」とは言えるはずはありません。
最終的にはよく交渉して妥協点を探りぬいた感じはあります。もともとの錦の御旗である「合併凍結」はどうにも困難であると判断されたなら新球団の即時参入に方針を換えたのは選手会の柔軟性が現れていると見ます。待ったなしに追い込まれたので小出しではありますが出した経営者サイドの新規参入条件の緩和もよく妥協したなとは思います。
あれだけ双方が妥協しながらそれでも決裂した背景は球界のこの先に対する考え方の違いではないかと思います。経営者サイドのスタンスはあくまでも「球団削減、リーグ縮小」の渡辺シナリオの延長線上です。一方で選手会側は「12球団維持、むしろ発展拡大が望ましい」ですからお互いの立場は水と油ぐらい差はあります。
決裂内容を見てみると、その差は文面上では小さく、個人的にはもう1週間ストを延期しても良かったんじゃないかと思います。しかし選手会側の感触としていったん文面上で妥結しても、経営者サイドはシーズンが終わるとこの合意を握りつぶして反故にする可能性を濃厚に感じたためではないかと観測しています。そのため後戻りできないほどの確約を得るため強硬なスト実行を行い来週の協議でより有利な条件を勝ち取ることを選択したと考えます。
それにしても渡辺シナリオが経営者サイドに及ぼした影響は甚大なる物です。経営者サイドはこの交渉で文面上では「来シーズンの新規参入の確約」さえ避ければ、後は新規参入をなんのかんのと遅らせ、握りつぶし、一方で今年のオフには球団合併を粛々と進め1リーグ化への既成事実を作り上げるつもりだとしか見えません。
第8幕 新規参入
じつに不思議なことなんですが、どうやら野球協約には球団の新規参入に関してはっきりした手続きがないようなんです。ドタバタのように申請期日が設けられ、審査委員会なるものが新設するとかしないとかを突然言いはじめ、まさかそんな短時日のうちに申請はなかろうと思っていたらライブドアや楽天と続々と申請があり、それではと、とってつけたように「専用球場、練習場、なによりリーグを戦い抜ける選手が備わっていないと認められない。」とまるで新規参入は何があっても認めないと宣言しているやり口には驚かされます。
専用球場、練習場、戦力の3つをそろえるための費用は莫大です。戦力だけでも25億円は必要であり、専用球場は既存のものをある程度利用するにせよ、練習場、合宿所の整備には少なくとも10億円単位は必要じゃないかと考えられます。さらに球団の事務職員も必要となり、運営費もろもろで5億円以上は必要と考えられます。40億円もかかるものを申請前に整え、審査の結果加盟は認められないとなればどうする気なんでしょうか。
戦力の人件費が25億円と言いましたが、ドラフトすら参加資格のない球団にどうやって選手を集めると言うのでしょう。とうぜんFAにも参加資格がないのですから、「プロになれるかもしれませんが入団しませんか?」で選手を勧誘するだけでまずチームを作れとは「入るな」というのに等しいと思います。
それと誰もがライブドアにしろ楽天にしろシダックスにしろパ・リーグに加盟するものであると頭から思い込んでいるようですが、セ・リーグに加盟を申請したらどう対処するのでしょうか。ライブドアはこれまでの経緯からパ・リーグに加盟する可能性は強いと思えますが、楽天もシダックスも(もちろんライブドアも)一言もパ・リーグとは言ってないのです。
ライブドアや楽天は球団の実体はまだ何もありませんが、シダックスは時間が経てば経つほど高くなる加盟への障壁をすべてクリアしています。シダックスが正面きってセ・リーグに加盟を申し込んだらどんな理由で拒否するか見ものです。オーナー会議とやらでまた反対されそうですが、裁判までもちこまれたらはたしてどんな判断が下されるか泥仕合ですが楽しみは楽しみです。
第9幕 スト妥結
発表された妥結案は経営者サイドのほぼ全面妥協で近鉄・オリックス合併以外はほぼ選手会の要求を受け入れた形になっています。合併凍結に全力を挙げた近鉄やオリックスの選手には不満が残るかもしれませんが選手会の勝利と判定しても良い内容です。でもそれで一件落着なのでしょうか。
経営者サイドには温度の差こそあれ渡辺シナリオがひつこく残っています。渡辺オーナー(もう「前オーナー」ですが)は表舞台から去ったとはいえ全面撤退したわけではなく、裏から失地回復の策謀の糸を引いているのは誰もが知っていることです。宮内・堤の両オーナーもこのまま千載一遇のチャンスをこのまま指をくわえて見過ごすとも思えません。
この辺も裏工作はある程度進んでいると考えても良いと思います。ひとつ見え見えなのは今回承認される球団は楽天で裏決着しているのはまず間違いありません。あまりにも唐突で不自然な仙台への本拠地決定がそれです。仙台選定はライブドアが先鞭をつけ知事とも協議し発表されたものです。それが地元への相談もなく楽天が仙台としたのは策謀の臭いがぷんぷんします。
渡辺前オーナーにすれば1リーグ移行のシナリオを最後まで邪魔したのはライブドアです。ライブドア憎しは骨髄まで達しているでしょうし、ここに楽天を後発でぶつけ、ライブドア参入を拒否し、面目をつぶしてやろうぐらいはいかにもやりそうです。楽天にしても読売が加盟のバックアップをするという条件をぶら下げられれば、リーグ加盟は容易になるし、宿敵ライブドアを駆逐できるし言うことはありません。
裏約束はそれぐらいでしょうか。根本の渡辺シナリオは完全に葬り去られたわけではなく、巻き返しをにらんでいるのは言うまでもないでしょう。今の状況では動くに動けない状態ですので、ほとぼりが醒めた頃、今度は電撃的に2つの球団合併を発表して一挙に力技で選手会がゴタゴタ言わない間に既成事実を積み上げる算段が一番可能性があります。
もっと荒技となりますと1リーグ推進派の読売、西武、オリックスと今回新規参入で恩を売りつけた楽天が突如リーグを脱退し新リーグを結成するてなことも破天荒とは言い切れないと考えています。渡辺シナリオの読売の真の狙いはドラフト撤廃による読売の戦力無限強化ですから、別に阪神のいないリーグであってもまったく読売は痛くも痒くもなく、さらに阪神は最後に読売に尻尾を振るのも織り込み済みとも言えます。
どうもこのまま平穏無事に妥結になるとは思いにくく、「たかが選手」に赤恥をかかされた「たかがオーナー」の壮絶な巻き返しの続編があるのではないかと危惧しております。ただしそこまですると今回のスト騒ぎの比でないぐらいプロ野球が愛想をつかされるのは目に見えており、最低限のプロ野球を愛する心が関係者に残っていることを祈るばかりです。
終幕 再生への方策は
あらさがしの批評ばかりでは健全な議論とはいえません。批判だけをするのは誰でも容易であり、「だから誰か何とかしてくれ」式の提案では建設的な話にならないと思います。構造疲労でぐらぐらになったプロ野球界を再建するためには具体的にどうすれば良いかを今こそ真剣に論議する必要があると思います。たかがプロ野球ファンの提案なんて誰も聞かないかもしれませんが、いくら小さな声でも挙げなくては始まりません。あくまでも私見ですがおもいつくままに挙げてみたいと思います。
その1 真のプロ野球機構の確立
どんな改革再編を行うにしてもそれらの諸施策を推進管理する機構がないと始まりません。現在のNPB組織はほとんど無力と言ってよく、コミッショナーも今回の騒ぎで露呈したように何の権限もないお飾りの名誉職であることは周知のことです。
参考にすべき組織は野球ならまずアメリカのMLB。MLBだけではなくNBA、NFLも大いに参考になると考えます。日本でもJリーグは大いに参照してよい組織であると考えます。つまり特定チームの鼻息を窺うのではなくリーグ全体の為にどうしたらよいかを常に考え実行できる組織のことです。
リーグ全体が栄えるためにはどうしたらよいか。誰でもわかることですが、特定のチームへの戦力の偏りを無くし戦力を均衡化することにより、常にリーグ戦が団子レースの激戦になるように努めることです。ぶっちぎりの戦力を有するチームの独走レースでは観客は増えません。結果的に独走レースになるシーズンが生じることはやむをえませんが、そうならないだけの基盤整備を常に怠らずに行い、管理監督指導することができる強力な機構の確立がまず第一の条件であると考えます。
その2 収益の公平分配
リーグと球団の関係を考え直す必要があると思います。選手ははたして球団に就職しているのか、プロ野球機構に就職しているのかと言うことです。微妙な問題が存在していることは否定できませんが、あえてプロ野球機構に就職していると定義して考え直す方が改革の筋道が考えやすいと思います。
つまりプロ野球機構の下に所属している球団は、会社に例えると営業1課とか2課みたいなものでたんに同じ会社の中の部署が違うだけの存在になることが必要だと考えます。そうなることにより同じ成績を収めれば同じだけの報酬が得られることになり、球団間の年棒の相違による有力選手の偏在が避けられる考えます。
選手の移動は各球団の戦力のバランスの上で行われ、また有力新人選手の分配も同様の観点から行われれば常に戦力の均衡化が図れると考えます。たんにそれだけであるなら各球団の営業努力が無くなってしまうので、均衡化された戦力を持ってなおかつ優秀な成績をあげた球団には成功報酬を与え、無残な成績に終始した球団にはそれなりのペナルティを与えるシステムを確立すれば各球団間の競争意識は保持されると考えます。
やや過激と思われるかもしれませんが、放映権料とチケット収入の一部をプロ野球機構が管理し再分配するシステムがあればどの球団もある程度一定の収益が確保され経営安定に寄与すると考えます。また成績不振でチケット収入が不十分な球団はプロ野球機構が経営権を剥奪し、よりやる気のある運営会社に経営権を与えるシステムにすれば競争原理も保持されるのではないかと考えます。
その3 年棒抑制
一般常識的な範囲での報酬論には同意しません。なんと言ってもプロ野球選手には夢がないといけないと考えます。とくにトップのスター選手は人もうらやむ高給を取らないと誰もプロ野球選手を目指さなくなります。もしイチローがそのまま日本にいてあの成績を挙げ続けても1000〜2000万程度の収入しかないのであればあまりにも夢がない世界です。
夢のような成績を残す選手には夢のような報酬が出る世界は維持しておく必要はあると考えます。ただし成績に対する報酬をもっとシビアに査定していく必要があります。成績を残せなかった選手にはやはり大幅な年棒カットが絶対に必要です。二軍に落ちると言う意味合いをもっと厳しく評価する世界がなくてはいけません。
たとえ2億、3億を得ている選手といえども成績不振なら翌年は500万まで下がる厳しさがないといけないんじゃないでしょうか。500万は極端としても半減以下に容易になる給与体系が必要と思います。少なくともシーズンのうち1/3ぐらいしか活躍しない選手がチーム一の高給取りであるのはいびつです。
そういう意味で複数年契約も好ましいとはいえません。やはり成績は毎年が真剣勝負ですから、活躍すれば給料は上がる、成績不振ならあっさり下がるという目に見えて単純なシステムが必要であると考えます。さらに限度を越える高給の抑制として球団が選手へ支給できる給与の総額を明快な基準ではっきりさせておく必要があります。支給総額が決まっておれば特定の選手に過度の高給を支払えば他の選手への給与が減り、有力選手を抱えられる限度が自ずと決まります。自然とスター選手の数は限られ、その地位を得るため選手同士はしのぎを削ることになりますし、スター選手もその地位を守るために目の色を変えることになります。
その4 戦力均衡
一定の収入の限られた人件費のうちで戦力を整えるわけですから各チームの戦力は均衡化することになります。人件費を安く抑えて優秀な成績を上げれば球団は儲かることになり、逆に高給のスター軍団を抱えて優勝しても人件費で必ずしも儲からないことになります。ましてや高給だけで働かない選手ばかりを抱えても赤字を垂れ流す結果になります。
読売のように他の球団であれば十分レギュラーで働ける選手を代打要員や二軍で飼い殺しにするようなことは不可能となり、本当に才能のある選手はレギュラーでバリバリ働き、名前だけの選手は淘汰整理されてきます。球団は選手の見かけだけの名前に給料を払うようなことはなくなり、真に実績を上げ成績を残せるものを必死になって探すことになります。
球団は限られた資金の中で人気と実力を伴った戦力の整備に励む事が必要となり、安易なFAでとりあえず選手は確保しておくみたいなやり方は通用しなくなります。新しい人材の発掘は経営の要点となります。うまく選手を育成すればこれをスター選手として他球団に高く売りつけて収入とも出来ますが、安易に収入に走れば戦力の低下につながります。
さらに優勝するほどの成績をあげれば人件費は高騰し球団経営を圧迫しますから、自然と同一チームが長期の覇権を握ることが難しくなり、常にどの球団にも優勝のチャンスが生れ、緊迫したリーグ運営が可能となります。さらに人件費を渋って弱小チームを作ると成績不振ということでプロ野球機構から指導が入り経営権を剥奪されることもありますので、勢い運営は真剣にならざるを得なくなります。
いかがでしょうか。いちおう4つの提案として書いていますが、要はまず真のプロ野球機構を作ることです。いかなる改革再編も全体を管理統括する団体がない限りなんら進歩を望めるとは思えません。真のプロ野球機構の成立は同時に球団の地位、オーナーの権威の低下を意味します。今のプロ野球は「道楽」で球団を持っているオーナーのためにしか動いていません。決してプロ野球を発展させるために自分の球団が犠牲を払うなんてことには関心の一片もないといってよいでしょう。
おそらく今の情勢で出てくる改革案は小手先のドラフト改革とFA改革、選手の年棒の無意味な抑制ぐらいしかでてきません。いくらもともとの素案が良くても老害のオーナー会議を抜ける頃にはずたずたに骨抜きにされた毒にも薬にも、いやかえって何もしないほうがマシの実行案になるのは目に見えています。しかし悔しいですがオーナー連中(とくに渡辺前オーナー)の顔を思い浮かべると何も変わらないのでしょうね。