プロ野球と観客動員数

このエッセイは阪神優勝の余韻で書いたもので、今の1リーグ騒動への意見としては陳腐化しています。もし現状への意見をお読みになりたい方は1リーグ制になる? 〜プロ野球の危機〜の方をお勧めします。

プロ野球と触れたからにはまず18年ぶりの優勝おめでとうございます。18年前と言えばまだ学生時代、長年の応援チームの優勝の初体験と言うことで、猛烈に入れ込んだ思い出が残っています。あれから18年、たしかに気が遠くなるぐらい長い年月でした。

阪神の優勝についてはあふれるほどの情報があると思いますので、今回はプロ野球人気の危機についてのお話をしたいと思います。長い間、プロスポーツの王様と言えば野球となっていました。そもそも日本でプロスポーツとして興行が成り立っているものはそう多くなく、野球、相撲、ゴルフ、プロレス、ボクシングと最近になってサッカーぐらいではないでしょうか。テニスやフィギュアスケートはまだまだマイナーですし、オートバイや自動車、競輪、競艇、競馬あたりになるとちょっと特殊技能過ぎるかなと思います。

その野球人気が傾きかけているいう主張が最近良く目に付きます。Jリーグやワールドカップに代表されるサッカー人気、プロ野球自体も野茂、イチロー、松井などのメジャーリーグ流出で日本プロ野球の空洞化についての議論はうるさいぐらいです。

ではプロ野球の黄金時代とはいつのことなのでしょうか。なにせ歴史の長いスポーツですから各個人により主張にずれがありますが、稲尾、中西を擁した三原西鉄と、川上、藤田をそろえた水原巨人が巌流島の決闘と呼ばれる死闘をくりひろげた昭和30年代と、長島、王の不世出の2大スターを率いて9連覇をなしとげた川上巨人全盛の昭和40年代と現代を比較してみたいと思います。

比較にはなにか物指しが必要なんですが、一番単純な物指しである観客動員数でみるのが一番分かりやすいと考えました。もちろんそれだけでは量りきれないものがあるとの意見もあるでしょうがそれは黙殺します。

まず昭和30年代、異論もあるでしょうが球史に残る年としては33年が有名です。この年は西鉄は3年連続巨人を日本シリーズで破り3連覇、とくに3連覇目は三連敗の後に4連勝と言ったドラマチックなものでした。で、観客動員数ですが、セ・リーグの覇者巨人が147万9900人、リーグ全体で529万9100人です。一方パ・リーグは全盛の西鉄が89万7350人、リーグ全体で358万5100人です。

次は昭和40年代、日本中の野球少年が「巨人の星」をみながら大リーグボールを投げる日を夢見ていました。この年代で最高の入場者数は巨人が9連覇目の昭和48年で、巨人が276万5000人、セ・リーグ全体で765万800人、パ・リーグの覇者は南海で65万7700人、リーグ全体で350万1300人です。

それでは現代はどうかなんですが、平成14年のデータではセ・リーグでは優勝した巨人が378万3500人、リーグ全体で1324万3500人、パ・リーグでは優勝した西武が168万2000人(2位のダイエーが310万8000人)でリーグ全体で970万9000人です。今年は阪神が300万人をこえ、巨人、ダイエーも300万人を超えているでしょうから、去年とそれほど変わらないんじゃないかと考えています。

ちょっと表にしてみます。

年代 セ・リーグ パ・リーグ
昭和33年 529万9100 358万5100
昭和48年 765万8000 350万1300
平成14年 1324万3500 970万9000

はっきりいってプロ野球人気は極限までに達しているのではないでしょうか。去年の巨人の観客動員数なんて、平均で1試合あたり54050人、これ以上どうやって観客を入れようと言うのでしょうか。阪神の極限動員数も、主催ゲームが年間で70試合で5万平均で350万ですから、もう上限と言ってもよいと思います。

ただしこの数字には大きな嘘が含まれていることもまた周知の事実です。プロ野球の観客数の集計の素は主催者発表なんですが、どうやって数えているかと言えば、たとえば甲子園の阪神巨人戦なら係員が球場を見渡して、「通路まで一杯の満員だから、53000人!」いう丼勘定です。ある消化ゲームの観客なんて選手が目を凝らしてどう数えても500人ぐらいしかいないのに、「2000人」なんて数字が出ることもしばしばだそうです。2000人の根拠は年間指定席は観客が入っていると仮定するとか言う話を聞いたことがあります。

では実数がどれぐらいかですが、プロ野球の観客数もオールスターとか日本シリーズでは比較的正確に有料入場者数がカウントされています。球場によりばらつきがあるのですが、おおよそ普段の発表の70〜90%ぐらいになっており、レギュラーシーズンがこれよりやや水増し率が高いと推測すればセパあわせて2000万の主催者発表なら1500万程度が妥当ではないかとも言われています。

ではそんな水増しの入った観客数で人気の実相を観察するのは無理があるとの非難もありそうですが、水増し率自体は過去も現在もそう大きく変化は無いのではないかと推測しています。少なくとも王、長嶋が活躍した巨人9連覇時代よりセ・リーグで倍増、パ・リーグで3倍増になっていると考えて良いと思います。

阪神が300万人の主催者発表で水増し率を計算に入れて200万人としても1試合約3万人です。3万人も入る興行を年間70回も行えるスポーツが他にあるでしょうか。セ・リーグとパ・リーグをあわせた観客動員数は水増し率を割り引いても日本人の10人に1人以上が球場に足を運んだことになり、これほどの観客動員をたとえばサッカーでしようとすれば、日本代表が横浜国立球技場で100試合満員にしてもおいつきません。

とはいえ安泰という訳でもないでしょう。若貴人気で絶頂を誇った大相撲人気が急速に衰えたのは最近の話ですし、危機感を常に抱くのは経営者として当然です。ただどこかのオーナーのように巨人が9連覇することが球界の繁栄につながると無邪気に信じ込んでいるようでは暗いですが。