松井 コーヘー(まついこーへー)さん
美術家 22歳

◆本当に表現したいものとは
 新長田の再開発ビル。工事中の仮囲いに、愛嬌たっぷりに土から顔を出す変な生き物たちの絵が並ぶ。行き交う人たちが楽しげに、絵の中に書かれた変な言葉を声に出して読みながら歩いていく。

 ほわほわほわほわ ほんわかわか/うねうねうねうね くねっくね/
どきどきどきどき むらむっらー/ぬぎぬぎぬぎぬぎ すっぽらぽ/
ちきゅうのめざましなっている…

 動物や昆虫が好き。自然界の曲線、変な形が好き。そんな彼が描くのは、どこかで見たことがあるようなないような、実際にいるようないないような生き物たち。
 小さな頃から好きな絵をのびのびと描く環境に恵まれ、自然に創作活動の道に。一時は日本画を習っていたが自由奔放な表現は認められず、疑問を抱えたまま入学した芸大で現代美術家の嶋本昭三氏に出会った。「こんな人が本当にいた!」―まさに彼の願望だった「したいことを思いのままに」表現し続ける嶋本氏に衝撃を受け、自らも湧き出るアイデアをそのまま作品に表現するように。大量に絵の具の雨を降らせたり、黄金に塗りボンドで固めたTシャツを何枚も垂直に立てたり…。けれど、作品に求める斬新さや奇抜さがエスカレートしていく反面、「『新しい』=『面白い』じゃないはず。今の自分はただ新しさを求め続けているだけでは?」そんな疑問が湧きあがる。違和感を持ち続けたままの創作活動、悩める日々。そして―。
 「原点に戻って自分が描きたいものを考えた時、真っ先に飼い犬の“マリリン”が浮かんだんです」。愛情を込めて線を引き、本来の色にとらわれない思いのままの色を塗る。“マリリン”に始まり動物や昆虫を次々に描き、組み合わせ、分解し、また合体し…。そうして「〜っぽい(ふぉなららっぽい)」生き物たちがどんどん誕生していった。
 「『〜みたい』『いや、〜かな?』そんな風に、絵を観てあれこれ考えて欲しいんです。あやふやなモノを実物に照らし合わせることがピントを合わせるちょっとしたきっかけになって、今度は自分の心の中にある曖昧な物事について考えるようになってもらえたらなあと思って」

◆身近な人のための芸術を
 そんな彼は今、日韓の現代美術家が集結する六甲アイランド現代アート野外展への出展準備を進めている。毎年海をバックに個性的でダイナミックな作品が並ぶこの展覧会へは、昨年に続き2度目の出展となる。「広い空を生かした、観る人が楽しめるような作品を」と穏やかな表情であれこれ模索中の姿には、もう昔のような気負いは見られない。
 「以前は芸術のための芸術を追求しようとしていたけれど、自分が本当にしたかったのは自分や周りの人のための芸術だと気付いたんです。これからも遊び心を忘れず、試行錯誤しながら色や形の追求ゴッコをしていきたいです。それから、絵本のように物語性があって、観る人の心にじわっと染み入るような作品にも挑戦したくて。とにかくあれこれ考えながらやってみるのが好きなんです。考えれば考えるほど色々な発見があるから」


●プロフィール●
伊丹市生まれ。1998年より嶋本昭三氏に師事。
宝塚造形芸術大学卒業。1999年第27回現代芸術国際AU展新人作家賞、第7回川西市展現代美術賞、2000年姫路市展市長賞ほか各賞を受賞。これまでに個展をフィンランド、西宮、宝塚、神戸で、パフォーマンスをフィンランド、台湾、ドイツ、神戸で行う。現代芸術国際AU会員。伊丹市在住。