1歳未満の子供にはインフルエンザ治療薬(タミフル)が使えない?

2002-2003シーズンはは足らなくて大騒ぎしたタミフルでしたが、2003-2004シーズンはなんとか必要量が確保されているようで最低限の安心はしていました。ところが2004年1月半ばに小児科医を震撼させるニュースが飛びこんできました。
動物実験の結果、1歳未満の乳児に服用させると脳内のタミフルの濃度が異常に高くなり死亡する可能性が見つかったため、1歳未満の乳児への使用は慎むこと。
(読みにくいかもしれませんが、通知原文を読みたい方はこちらをどうぞ。)
日本での発売元は中外製薬なので担当者を問い詰めたところ、次のような回答が返ってきました。
  1. アメリカの製造元でも同様の注意がなされた。
  2. もともと添付文書(注意書)に「1歳未満の乳児に対する安全性は確立していない」となっているのを再強調しただけである。
  3. 厚生労働省からの正式通達として「使用禁止」になるかどうかは現時点では不明である。
遅れて医師会からも同様の通達がありました。はっきり言ってかなりあいまいな文章で「正式には絶対禁止でないが、もし使って問題が生じたら使った医者が悪い」としか取りようがないものです。どこが問題かと言えば、もしタミフルを使わず患者が重症化して死亡した時に「使わなかった医者が悪い」とならないかどうかは現時点で不明です。中外製薬の担当者にも質問しましたが口を濁すばかりで明確な返答はありませんでした。
憶測すれば正式に禁止通達を出すと1歳未満のインフルエンザに対して治療方法がなくなるため医者が自己責任の範囲で処方するのは黙認し、もし副作用で死亡事故が起こったら「ちゃんと通達を出しておいたのにそれを無視して処方した医者が悪い」との逃げ道を作っているとしか思えません。 おそらくどこかの運の悪い医者が1歳未満の乳児にタミフルを処方して、死亡事故でも引き起こしてマスコミにでも報道されれば大手を振って禁止通達を出すつもりなのでしょうが困ったものです。
それでもって当院の対応ですが、1歳未満の乳児のインフルエンザが脳炎・脳症を起こしやすい事、脳炎・脳症でなくとも症状が重症化して入院に至る可能性が高いことを考慮して、上記のような危険性を保護者の方に十分説明した上で、それでもタミフルを強く希望された方のみ処方させていただきます。逃げの姿勢で申し訳ありませんが、目の前で苦しんでいるお子様と通達の狭間ではこれぐらいの対応しかしようがありません。なにとぞ御理解いただきたいと存じます。
それにしてもとくに神戸では1歳未満の予防接種もダメ(当院はしますが)、そのうえ治療薬も使えないとなるといったいどんな治療を期待しているのでしょうか。おそらく小児科医の正しい態度は「あなたのお子様はインフルエンザです。残念ながら予防法も治療法もないので、後は運を天にまかすしかありません。どこかご利益のある神社でも紹介しましょうか?」なんでしょうか。
事実上1種類しか治療薬が無いのですから、副作用による危険性とインフルエンザそのものの危険性をもう少し厳密に天秤にかけて、使用法にもう少しゆとりをもてるようにならないか悩んでおります。

2004/3/9付厚生労働省のタミフルに対する公式見解が発表されました。